「画家、さんだったんですか」
「だったとは…」
「いや、過去形の意味じゃなくて!」

見下ろされる形になっていた俺があわててフォローに入ると、礼次郎さんはフン、と鼻を鳴らしてまた座った。

「まあいいが…で、彼女の名前は?私は是が非でも彼女の絵を昇華させたい……いや、」


おじいさんは一度言葉を切って、俺を見、遠くから駆けもどってくる葵を見て、囁くような小さな声で言った。

「守りたい」






その言葉の響きは、俺の中の葵への気持ちと感応したらしく、ビリビリと電気が駆け巡るように俺の体に行き渡った。

里奈ちゃんのお母さんは、「たしかに葵ちゃんの絵は素敵よね。本物より本物らしいもの」と頷き、お父さんはお父さんで、「僕もすごく好きだなあ」と俺に笑いかけた。





葵、どうする?

お前の絵が好きだって人たちが、ここにこんなにいるんだぜ。

これって、すごいことだと思わないか?




夏の日差しはじりじりと暑く、野原をかける風はムッとした中に草の匂いを交え俺たちの鼻腔をくすぐる。その風は草をやわらかく押し倒しながら、はしゃぐように駆けまわってどこかにほどけて消えた。