公園までは、30分どころか小1時間かかってしまった。

電車の中で俺は、小さいころの記憶なんて当てになんないなと、眠ってしまった葵に肩を貸しながら1人苦笑した。
ビル街は魔法のように消えてしまって、少し自然が深くなった。


『次は、緑美国立公園前でございます』


車内にアナウンスが流れたのをきっかけに、俺はいつかさっちゃんのところに行った日のように、葵を揺り起こした。
電車は次第に減速していく。


「葵、起きて」
「…んー…?」
「公園!行くんだろ!」

俺がそう言ったのとほとんど同時に、びくっと肩を震わせて、そうだ、噴水!と小さく叫んだ。
俺はというとその様子に少しだけ笑ってから、スケッチブックとその他色鉛筆やら鉛筆やら消しゴムやらを入れた大きな布のトートバッグを肩にかけ、立ち上がって、葵の手を引きながら電車を降りた。





「噴水の絵、描くのか?」
「んー…どうしようかなあ」

葵はとにかく楽しそうで、足取りも軽く、1歩踏み出すたびにやわらかな色素の薄い髪が太陽に光を浴びてキラキラとはかなげにきらめく。

「ちとせくんっ、手、繋ごー」
「ん?ああ、いいよ」

つないだ手をぶんぶん振る姿は無邪気そのもので、俺はだから、逆に時初めて出会ったころの彼女のことを思い出した。



無表情に、ただひたすらに何かに脅えていた、あの夜。



葵の心の傷は、癒えたのだろうか?