葵はマンガへの興味を失ったらしく、リモコンを片手に持ってテレビのチャンネルを変えた。
すると、たまたま芸能ニュースをやっていた局があった。
しかも、「離婚騒動」ではなく、「花田レイコ」の話。

今週のメイン芸能ニュースというコーナーだったから、だと思う。
そうじゃなかったら、今更「人の食い付きの薄い」内容に時間なんか割かないだろう。


テレビにはもう何度も見た、モザイク処理された俺の写真が流された。
見飽きたというか、見慣れたというか。何にも感じないでいると、急に俺の視覚を刺激するものが映された。






「………葵!?」






それは、どこのニュースでも使われていなかった写真だった。
夜の公園、の、俺と葵。
しかも、モザイク処理がなされていない。

「はあ!?」

アングル的に、あの夜だ。
やっぱりつけられてたんだな、俺の勘は鈍ってなんかいなかったみたい。





モザイク処理がされていなかったのは、ほんの1、2秒ってとこだったと思う。
ニュースだから当然生放送で、処理が遅れただけなんだろう。単なる放送事故、それだけ。


それでも、葵ってことがはっきりと識別できるだけの時間、俺たちの素顔がさらされた。



「ちとせくん、どうしたの?」

葵の声で我に返って、いや、と首を振る。

「……なんでも、ないよ」

まあ、気にすることもないか。そう思った。






なんだか一瞬ものすごく悪い予感がしたのだけれど、それを追求することはせずに、俺は雨のせいで外に洗濯物干せないなあと、どうでもいいことに頭を悩ませた。









そして、その日は何もなしに終わった。

今までにないくらい、本当に何もなく。



嵐の前の静けさってやつだったのかもしれない。