風呂場に服のまま入った。

大きな鏡に俺が映った。相変わらずさえない顔で、…いや、いつもの倍は疲れた顔で、そこに立っている。
風呂場で服を着ているという状態をこの前はバカバカしく感じたけれど、今日はその感覚すらない。


呼吸がしにくい気がした。




蛇口をひねった。

勢いよくお湯が出て、俺の頭にそのままかかる。



すぐにTシャツやらその他の服やらにしみ込み始め、身動きがとりにくい。
まとわりつく服の感じは気持ちが悪く、重く、息苦しかった。

涙を流しても、シャワーのお湯に紛れてしまって、見えない。
自分にしか、泣いているということはわからない。






花田レイコは、…花田レイコに限らず、みんなこういう風に生きているんだろうか、と少し思った。

…みんなってのは言い過ぎかもしれない。
そう思って、『花田レイコは』に焦点を戻す。

そういう仕事だと割り切っているのならそれでもいい。
それで金をもらってるんだ、多少の不平不満を感じたとしても、我慢しなくちゃいけないのかもしれない。

常にまとわりつくのは視聴者、世間の視線。
それは彼女を励ましてくれることもあるだろうけど、時には重くて鋭い刃にもなりうる。

息苦しさ。
不安、悩み。

誰しもが持っているものだけど、テレビの前やカメラの前では、「プロ」としてそれをさらすことは許されない。
誰にも気づいてもらえないのだろうか。







…………でも。
誰にも涙を見せないのと、誰にも涙を気付いてもらえないのとではまるで違う。