玄関を開けると、風が吹き抜けた。

部屋の中は真っ暗で、通路から差し込んだ光に照らされて、リビングの水色のカーテンが思いきりはためいているのが見えた。




人の気配が、ない。




「…葵!?」
「葵ちゃん!?」


いつもならすぐに駆け寄ってくるのに、それがない。
声が聞こえない、音がない、明かりが見えない。

俺はどうしようもなく動揺するのと同時に、恐怖を感じている自分に気づいた。

「葵っ」

廊下を走って、リビングに駆け込む。
サトがそれに続く。



気づいた、葵はもう、俺の一部。

たぶん、失うことなんてできない。




暗闇の中に、葵と思われる影が、ぼんやりと見えた。


「サト、電気!」
「待てってば」

永遠のような数秒の後、部屋が明かりに持たされた。
俺はあわてて、倒れている影をゆすろうとした。




「あお……って、なんだ、そっか」



その手を引っ込め、力なくその場に座る。



なんてこともなかった。

葵は、革張りのソファーの上で、気持ち良さそうに寝息を立てていただけだった。