サトも俺と同じことを思っていたのかもしれない。

俺たちは情報を受け取ることに慣れているけれど、それを選択したり判断したりすることには慣れていない。
テレビでやっていることは全部本当だと、思いこむ癖がある。
新聞の内容は事実だと、頭から信じ込んでしまう。

すべてを疑う必要はないだろうけど、少しくらい自分で考えてみてもいいんじゃないだろうか。


そして、周りに流されすぎるのもよくない、と俺は思う。

友達に合わせることも時には大事だろう。
テレビの内容、雑誌の記事。
面白いことに気を向けるのは楽しいし、俺も否定はできない。

でも、笑う前に考えることが必要だと思う。

俺たちが笑う影で、誰かが傷ついている。


それが今回は花田レイコだったっていう話。




「なんだかなー。アイドルは恋も出来ねえのかって感じ?つーかもっと話題にしたほうがいいことってあんだろ」

女子アナのコメントを思い出しながら、俺はサトに言った。

「ああ、年金問題とかな」

サトは月を見上げながら言う。
明るい満月だった。
見たこともないくらい、黄色い。そして白く光っている。

「年金…そう言われてみりゃあ、あれどうなったんだ?」
「さあな」



マンションのエントランスにつくと、なんだか妙な気配がして、俺は入る前に振り返った。

この間の公園のこともある。
なんだか最近、つけられてる気がしてならない。



でも、公園と違って明るい繁華街に面している場所にこの建物はあるわけで、時間もまだ早くて。
人は当たり前のようにあふれていて、気にすることはやめた。