駅について、俺はコンビニに入った。
いつか葵と寄ったコンビニだ。

暑苦しく湿った夏の外気から解放されて、気分が良かった。



「っしゃいませー」

店員が俺のほうをちらりと見ながら、そういった。
「い」と「ら」がほとんど発音されていない。


何を買うでもなく、窓際の雑誌のあたりをぶらぶらしてみた。
雑誌を読む習慣はないし、今特に好きなマンガがあるわけでもない。

でも、なんとなく見てしまうから不思議だ。



週刊誌の表紙は、花田レイコでいっぱいだった。
不運なことにほとんどが今日発売のものだったせいだろう。


俺はある意味その「恋人発覚!?」のライトを浴びてる片割れであるのにもかかわらず、他人事にしか思えなかった。


ただ、他人事のように感じる反面で、花田レイコはどうしているんだろうと少し心配になった。
電話でもしてみようかと思ったけど、迂闊な行動をして、逆に迷惑をかけてしまうことも十分に考えられる。

今、何かのメディアに彼女がさらされていないなどとは言い切れないからだ。



「…あーもー……」



前、映像を流されたときとは違って、今度は俺にだれも気づかない。
花田レイコのスキャンダル、そんな大きく甘い「お菓子」の前では、大人たちも子供に戻って夢中でかじりつく。

芸能人には、人権があまり保証されていない気がする。
そう感じるのは、俺だけじゃないはずなのに。