ホテルを出てから、美佐が思い出したように言った。

「ねー!今度レイコちゃんに会わせてよ!じゃなかったら、サインもらって来て!」
「えー…」
「わかってないなあ、ちとせ!私たち、夏休みが明けたら、あた同じクラスなんだよ!?友達にでも戻っとかないと、気まずいだけでしょう!」
「あー…」

言われてみれば、そりゃそのとおり。

「……イチに、何言われるか…」
「イチは生徒いじりが趣味なんだよ~。放っておけばいいの!」




普段の俺たちと、何が変わっただろう。

今までのようでいて、それは少し違う。



もう、手は繋がない。

もう、キスはしない。



「それから。ちゃんと、会わせてよ、その…『葵ちゃん』?だっけ?」

「わかってる」







わかってる。








そのあと、そのまま遊んだ。
変な話、俺たちはやっぱりお互いに単純なんだろうなと実感した。

このまま帰るのは、電車賃の無駄!と美佐が主張したので、ゲームセンターに行った。



「よ、店長」

店先で新しい音ゲー入荷の宣伝用のノボリを立てていた店長に、声をかけた。
店長は久しぶりに見た俺の姿に、最初めちゃくちゃ驚いた。

でも、それは久しぶりだったからではなくて、「花田レイコ」関連。

「あれ、ちとせだろー。モザイクかけてもバレバレ」
「うるせーなー」

すげえよなあ、お前、と感心されているのか見下されているのかよくわからない口調で言われた。





「あ、ちとせ!あれやろー!エアーホッケー!美佐真面目に強いんだから!」

美佐が店の奥に置かれたホッケーを見つけて、俺を店長の前から移動させた。