「……なんだ?あれ」

駅前の大きな液晶パネルには、「花田レイコ、恋人発覚!?」という品のない赤と黄色の文字が映り、それと並んで花田レイコの写真が。昨日本物をすぐそばで見たのにもかかわらず、まるで別人のように現実味がない。

「恋人発覚…へえ、そう」


『花田さんは清純アイドルってことで売ってるので…まずいんではないですかね?こういうのは』

女子アナがこれ以上深刻なことはないっていうくらい神妙な顔をして話す。
バカじゃねえの、と思う。

日本は、平和だ。


マスコミはいちいち馬鹿見たいにこの手のことで騒ぐ。
いいじゃないか恋人いたって。
芸能人だって一般人と変わりないだろう?……ただテレビに出ているってだけなのに。





俺は頭の片隅でそんなことを思いながら、人だかりをかき分けて、噴水のそばのベンチに座っていた美佐に近づいた。

「美佐!」

美佐はベンチに座りながらも、呆然と大きな液晶パネルを見つめていた。
声をかけても、気づく様子がない。

妙に思って、俺も気にしていなかった液晶パネルに目を向けた。
相変わらず流れているのは花田レイコの「恋人発覚か?」という内容。
でも、気づいたことがある。

「………またかよ」

無意識に、言葉がこぼれた。




花田レイコの写真に代わって映し出されたのは、俺と花田レイコ…そして、最悪なことに葵も一緒に。
ファミレスで笑ってる、昨日の俺たちの姿だった。


幸いなことに、画面が粗いので顔ははっきりと見えなかった。
というか、顔だけモザイク処理されている。
ただ、そうとわかってる人間、つまり当の本人である俺には、あれが俺たちであることがすぐに分かった。






「……ちとせ、レイコちゃんと何やってたの」


美佐が抑揚のない声で俺を見ずに言った。


「…俺じゃねえし」

「嘘、いわないで」

「嘘じゃねえし」

「それに、あの女の子誰?」