公園から離れて、いくらか歩いた後、大通りに出た。
月の明るさのありがたみを忘れてしまうほど、夜の街は無駄に明るい。



「ちとせくんー…眠い…」

葵が目をこすりながら、小さな声で呟いた。

「えー?」
「……もう…、歩けない…」

葵は半泣きの声で呟くと、そこに立ち止まってしまった。
たぶん、さっきの公園でのこともあってだろう。

俺は闇討ちとか結構慣れてて、……だって、恨み買うこと多かったから、だから怖くなんかないけど、葵は違う。

気が抜けたって、ことなのかもしれない。



「よっしゃ、乗って葵」

「えー?」


俺はしゃがむと、葵に言ってその腕を引いた。
葵は、ありがとう、と眠そうな声で呟いたあと、よいしょ、と俺の背中に乗った。


相変わらず軽くて、消えてしまいそうだった。
その体をしっかりと支えて、人の中を進んだ。










今思えば、あの時無理にでも茂みをかき分けて、確認しておくべきだったんだ。

それを、しなかった。
間違いだった。




俺は翌日、とんでもない内容の記事が世間を出回るのを見るハメになる。







「葵ー」

すでに寝てしまってるのを十分承知で、俺は囁くように言ってみた。

「……好き、だよ」




多分もう、どうしようもないくらい好きなんだ。

美里のことを解決しなくちゃいけないし、しなかったら俺は単に最低な男なんだけど、それでも、もうどうしようもない。
止められない。








俺は、少なくともあの時点での俺は、ひどく幸せだった。