「…じゃあ、そろそろ行かないと」

花田レイコは立ち上がりながら、そう言って少しだけ口元を曲げた。

「そっか、頑張れよな」

大変だよなあ。
生活も不規則になるだろうしなあ。
…って、俺も葵が来るまではある意味不規則な生活してたのか。

俺と葵も席を立って、払うと言い張る花田レイコを適当にかわし、支払いを済ませてからファミレスを出た。


それにしても葵が来てまだ大した時間が経っていないのに、ずいぶんたくさんのことが起きたなあ、と思う。



俺が気付いていなかったたくさんのこと、

俺が疑っていたたくさんのこと、

信じようともしなかったたくさんのこと。




まっすぐな葵と時間を共にしたからかな。
いやなものがほんの少しずつ浄化されていく感じは何とも心地よくて、



もし葵がいなくなっちゃったら、とか。
考えるだけでどうしようもなくこわかった。


葵は俺の隣で変わることなく笑っていて、手を握れば握り返してくれる。
それだけでこんなにうれしくて、その分美佐に言うのがためらわれる。

俺ばっかり、
何やってんだって。