「…これ、さあ。花田さんもさ」

「え?」



俺はうまくつながらない言葉を半ば無理やりつなげて、花田レイコに向かって言う。



「俺が悪用するとは思わねーの?」

…いや、しないけどさ。



誰かを信じるのはいいことだと思うし、だから『誰も信じるな』なんて言えない。
だけど花田レイコが『私のこと知らない人なのに』っていうのと同じ理由で、花田レイコだって俺のことを知らない。知らないくせに、どうして信じることができるんだ?


…まあ、うん。人を信じることの大切さって、俺も最近知ったんだけど。



花田レイコは俺を見た。
それから葵を見て、もう一度俺を見る。




「…思わない…思えないよ」

「…へえ」

その時の目は、すごくまっすぐで、透明だった。





アドレス帳に、花田玲子の文字。

「これはプライベート用のだから、『玲子』なんだ」
「ああ、そっか…」

この人、芸能人だもんな。
ケータイを2台持っててもおかしくないか。



俺たちの様子を見ていた葵が、私もケータイ欲しいよ、と言い出した。

「じゃー…明日にでも買いに行くかー。それでいい?」
「うん!」
「そしたら、あたしにも教えてね」



3人でしばらくそうやって、穏やかな時間を過ごした。