「………や、違う」
「そうなんだ…なんか、凄く仲良しに見えるけどなぁ」

仲良しだよっ!と笑う葵に、花田レイコも笑いかけた。

「………名前、訊いてもいいかな」
「俺の?」
「あなたと、この子の」
「私はねぇ、葵っ!日向、葵っ」

俺が口を開くよりも先に、葵が笑顔で答えた。花田レイコもニッコリして、そっかぁ、と返す。

「あおいちゃん?かわいい名前だねぇ」
「レイコちゃんもかわいいよー」

2人はきゃっきゃと笑った。

「………え、花田レイコって本名なのか?」
「うん。花田レイコ。レイコは…」

花田レイコは机に指で『玲子』と書いた。

「デビューのとき、カタカナにすることになったの。理由は忘れちゃった」
「へぇ…」
「君は?」
「………谷神、ちとせ」

花田レイコはふふ、と小さく笑った。

「もう教えてくれるんだね」






言われてみれば、前は教えるのを拒んだんだよな。








「だって、あのときは…」

テレビでめんどくさい映像流されて、イラついてたし。
俺がそう言うと、そうだよね、ごめんなさいと頭を下げた。

「流さないでくださいって、迷惑がかかるからって…テレビ局のディレクターさんに頼んではみたの。でも、…こんな視聴率取れそうな映像を流さないでいることはできないからって、言われちゃって」

「え?」

「……助けてもらったのに迷惑掛けるようなことはしたくなかったんだけど…ごめんなさい」

「…いや、」

なんだ、俺はってきり花田レイコがそそのかすようなことをしたんだとばっかり思っていた。
そっか、…そういう事情が。

その時のやり取りを知らない葵は、ぽかんと俺たちを見つめていた。
そこに、失礼しますー、とウェイトレスがやってきて、テーブルの上にはおいしそうに湯気を立てた食べ物が並んだ。