ハコイリムスメ。

なぜだろう、見慣れたはずの葵の顔、なのに何がおかしい?

「葵、」

もう1度名前を呼ぶ。
優しく、声を荒げず、やわらかく。
彼女は俺を見た。あの夜と同じ、ひどく怯えた目で。

「ごめんな…でかい声出して」

謝ると、少女は大きな目を見開き、そこに涙をためた。くしゃくしゃに顔をゆがめ、ついにはサトの側を離れて俺の方に歩み寄ってきて、そしてしがみつく。

「え…あお、い?ホント、泣かないで」

サトは当惑した目で俺たちを見ている。
一番戸惑っているのは俺なのに。





「ちとせくん、いなくなっちゃやだぁ…っ」





「…え?」
「やだ、やだ…やだよお…っ」





ぎゅう、小さな手にありったけの力を込めるようにして。回した細い腕で、想いを届けるように。

この小さな体のどこに、これだけの力があるんだろう?

細い、小さい声。ふるえる肩。回された細い腕に込められた力、すべてがもう、



愛しいんだ。