意外にもたくさんの人でごった返していた7番線。

おじさん、おばさん、女の子のグループ。
カレカノ、家族連れ。



ベルトコンベアー?
次々と流れていく人ごみ。



「暑っ苦し…」

Tシャツの首の部分を引っ張って、パタパタ動かす。
夏休み直前。
なんだって東京の夏はこんなに蒸し暑いんだろう?




俺のすぐ前には、小さな女の子が、若いパパとママにそれぞれ右手左手を繋がれて立っていた。

後ろ姿からもわかる、楽しそうな嬉しそうな様子が、目に痛い。



──ただ、ちょっとだけ思ったんだ。
葵は、父親と母親に手を引かれて電車に乗ったこと無いんだろうなって。
それだけ。
たったそれだけのことなのに…

なぜか俺は、たまらなく悔しかった。



やっぱり、俺じゃ無理かもしれない、って。





保護者の心境でいたって、どうやっても父親には、なれない。

親父を知らない俺が、どうやって親父を演じるんだ?


生まれてはじめて、少しも記憶に住んでいない親父を恨めしく思った。

好きも嫌いも感じないけれど、虚しさにイライラする。
最近じゃありえなかったほど、急速に真っ黒に染まっていく辺り。

唯一色が残っていたのは、目の前の3人家族。