ネオンサイン、信号機。
よく歌舞伎町は眠らない街、だなんて言われているけど、ここだって眠らない街なんじゃないか?

酔っ払いのおっちゃん。
タクシーに乗り込む、ワケありカップル。
ティッシュ配りのおねーさんに、不良もどき、リアルな不良。
もしかしたら警察かもしれない、目つきの鋭いおじさん。

それでもみんな、それぞれの居場所に立っている。
俺だけかな、不安定な氷の上に突っ立ってんのは。
夏だから、溶けちゃうかも。




駅に着いた。
…ものすごく近いんだけど。

家まで送ってくつもりだったのに、美佐は首を横に振った。

「ここでいいよ!!峰島のとこ行くんでしょ?方向真逆じゃん」
「や、でもさ…もう遅せえし…」
「何言ってんのー。まだ、9時回ってないんだよ?平気平気」
「…そうかな…」
「いいから、行きなよお。美佐、真面目に平気だからさ」

小首をかしげて笑う。
俺には出来過ぎた彼女。







美佐が本当は最後まで一緒にいてほしいって思ってることはわかってたんだ。

だけど、俺はずるいから。
気付かないふりをして、美佐の好意に甘えてしまった。

最低なやつ。

「…わかった。また明日な」
「うん!送ってくれてありがとね」

ちょうどその時、俺たちの立っていた3番線に電車が滑り込んできた。
日曜ということもあってか、比較的空いている。

「じゃ、ね」
「ん、おやすみ」

美佐が電車に乗って、3秒後位にドアが閉まった。
ニコニコ手を振ってくる彼女。
俺も手を振り返す。







――――――ちゃんと笑えていただろうか?







電車の去ったホームを数秒間見詰め、俺はサトの家へ向かうべく、3番線を後にした。