「………はぁ…」

ここまで来れば平気だろう…
あ、サイン頼むの忘れてた~ごめん美佐~…


美佐と別れたのはまだ薄明かるい時間。
なのに、ケータイの時刻表示は、7時過ぎだった。

息を整えながら、ゆっくり歩く。暫くして、マンションが見えたとき、俺は安堵の溜め息を漏らした。

疲れた足を引きずるようにして、エントランスホールへの6段を上がった。







「ただいま…」

リビングに入ると、サトがソファーな寝転がって、お笑い番組を見ていた。
映っていたのはハイテンションだけが取り柄みたいなうるさい男のピン芸人で、俺はそいつが嫌いだった。

サトが起き上がりながら、のんびりと言う。

「ちとせ、早かったな。泊まりかと思ったのに」

泊まりて…
どいつもこいつも………

「バカ言ってんじゃねぇよ…お前待たせてんのに。葵は?」

全身の生気が抜けたような思いで、問う。
サトが後ろを示し、振り向こうとしたそのとたん、しがみついてくる体温があった。

「ちとせくん~」
「おー、ただいま葵」
「おかえりっ」


あー癒される…

純粋な笑顔にバカみたいに感動してる俺と、風呂上がりの葵。