「あの~…」




帰り道を急ぐ俺を呼び止めたのは、フワフワな黒い巻き毛の、サングラスと帽子を着けた、「アヤシイ」を形にしたような女だった。

どこかで見たような…
気のせいか?


「なんスか?今急いでんだけど」

サングラス女は、俺を見上げてニコッと笑った。

「………昨日、」
「昨日?」
「昨日は、助けてくれてありがとうございました!!」

頭を下げるサングラス女。
誰だ、アンタ?

怪訝に思っていたら、サングラス女はサングラスを外した。

「これで、わかります?」

ピンと来た。
まさしく、「恋と愛と」の……

「お前!花田レイ」

「ちょっ、しー!静かにお願いします」


俺が大声をあげたら、慌てた花田レイコに手で口を塞がれた。

「んにすんだよ!!なんだよ、イキナリ現れて…つか、アンタのせいで今日は大迷わ」

必死の抗議の声は、黄色い声援にかき消されてしまった。

「きゃ─────!レイコちゃんと王子様ッ!!」
「写メ写メ!!」

う、げ!!

沢山の人間が、いっせいにこっちを指差し、駆けてくる。

逃げろ。

本能的に直感。あわてて走り出した。

「と、にかく!俺マジで急いでるから!!じゃーな!」

追いかけてきた声も煩わしい。
振り払うと、「心の底から迷惑」って顔をするよう努力して(大して努力はいらなかったけど)俺は言い放った。

「な、名前だけ教えてくれないかな!」

そうせがむ花田レイコを睨み付ける。

「やだよ、全国ネットで話されちゃ迷惑だからな!」


そそくさ退散させていただきましたよ、ええ。