ハコイリムスメ。

振り向くと少女が揺れる瞳で俺を見上げていた。
大きな、しかし温度がまるで感じられない黒い瞳。



じっと静かに見つめられたからか、俺はいくらか動揺した。


「……あのー、放してもらえます?」

極力怖がらせたりしないようにと、丁寧に、その上笑顔までサービスして言ったのに、反応がない。「放してもらえないかな?」ともう一度行ってみるも、やっぱり反応がない。



…コイツ、なんかおかしいんじゃないか?


俺はそう思いながら、眉を寄せた。
もう一度繰り返してみようかと思ったけれど、不毛な気がしたのでやめておいた。


…あ、それともさっきの恐怖で声が出ないとか?
…いや、怖くないだろう。
もういないんだし。



とにかくわかったのは、変な子だということだけ。





手を放さない少女と俺を見比べて、店長があれえ?と素っ頓狂な声を出す。

「なんだ、本当にちとせの連れか?」
「んなわけねーだろ、こんなガキくせーの」


舌打ちと共に乱暴に振り払うと、彼女はビクッと震え、うつむいた。
肩が小刻みに揺れている。
けれど、何も発しない。



「あーなかしたー。ちとせくんが女の子泣かしたー」
「うるせー!!バカ店長!!」

怒鳴ると、震えはさらに大きくなった。


「いや、アンタに言った訳じゃ」


ちょっと驚いて、付け足す。


俺を得体のしれない恐怖のような寒気のようなものが包む。



この子、絶対変だ。
何か、おかしい。