「ノンカフェイン、ですか?」
尋ねられた言葉の意味が理解できず、蓮は首を傾げた。お茶のカフェイン成分など考えたこともない蓮にしてみれば当然である。
手元のペットボトルを眺めてラベルを見ると、堂々と『ノンカフェイン麦茶』と記載されていた。どうやら、彼女の求めるものと合致していたようだ。
「そうみたいだな」
「それなら、その。いただき、ます」
蓮の中の記憶の少女は、一見強引だけれど焦る気持ちを隠しきれなくて、とにかく忙しない印象だった。
しかし現在の少女は、記憶とは一変してただ怯えているように見える。
少女の変わりようにまた舌打ちをしたい気持ちを抱きながら、冷蔵庫から一本ペットボトルを取り出すとびゅんと放り投げた。
「わ、わぁあ、あ、あっ!」
左右に揺れてなぜか軽いジャンプをしてから、少女はペットボトルをキャッチする。受け取ってからホッと息を吐くと、今までの気まずい表情はどこへやら、心底嬉しそうな表情を見せた。
その年齢相応のような表情に、自然と蓮の表情が和らぐ。
――なんだ、普通に笑えるのか
神妙で厳めしい顔つきをして、人を買うとか物騒なことを言った挙句、家までのこのこ付いて来た。
その上ちゃっかり寝るという図太さ……なんにせよ、今まで出会ったことのないタイプの人間の行動に驚いていた。
それに振り回されている、という感覚はないが、もうここまで来てしまったからにはどうでもいいか……という気持ちが蓮の中に着実に芽生え始めていた。
「あの、頂きますっ」
両手でペットボトルを握りしめ、また折れてしまいそうな程身体を折り曲げている少女。それに苦笑を漏らしながら、どうぞ、と蓮は言った。
――俺も歳かな
目の前の少女に、女の部分は感じない。
ただ後3年もすれば化けるなと寝顔を見て思ったことは認める。それに、訳の分からない世迷言を言ったかと思えば、やけに真面目できちんとした態度も悪くない。
――一体、この子のホントウの部分はどこなんだ?

