「剃るか、一応」
たまの休日くらいは、と普段なら髭を剃らない水曜日。
あごを撫でてから表情を歪ませると、蓮は考えることを放棄して髭剃りに手を伸ばした。別に、あいつの為ではないと言い訳をしながら。
風呂から出ると再び蓮は悩んで、GパンにTシャツを着て脱衣場を出た。
普段ならジャージを着るところだが、蓮の中の細やかな良心がそれに抵抗を示す。
もし、彼女が本当に自分のファンならば、と考えた場合に汚らしい自分は見たくないだろうという考えだ。
酔っぱらった状態の初対面から考えればすでに繕うものも無いように感じるが、これ以上のマイナスは少しだけ良心が咎めた。
状況が状況とは言え、芸能人と言うわずかながらのプライドは守りたい。
タオルで水気を取るように髪をごしごしと擦りながらリビングを開けると、見慣れないモノが、否、人が目に飛び込んできた。
「あ……」
「す、すみませんっ。眠ったりして!」
座っていたソファーから勢いよく立ち上がると、これ以上曲がらないだろうってくらいに身体を曲げて少女は謝罪した。
その少女の態度に蓮は、顔上げなよ、とそっけなく声を掛ける。どうやら目が覚めた少女はリビングに移動してきたらしいと認識した。
蓮の声を聞いて、怯えたようなおどおどした顔を上げた少女を見て、蓮は内心舌打ちをする。
――ずるいよなぁ、こういう顔すんのってさ
まるでこちらが悪いことをしたような気にさせる、申し訳なさそうな顔。
それにさめざめとした気持ちになりながら冷蔵庫へと足を運び、中からペットボトルを掴むとゴクリとお茶を飲んだ。
飲んでからそのボトルを見下ろし、まだ突っ立ったままの少女を見据える。一呼吸躊躇ってから、蓮は溜め息交じりに尋ねた。
「お前も飲む?」
その質問があまりにも意外だったのか、目を見開いて少女は固まる。
一寸の後、戸惑った表情を見せてから少女はおずおずと口を開いた。

