刹那との邂逅

 あまりにも不気味すぎる交渉に、話など聞くつもりなどなかったはずが、蓮は引き込まれるように尋ね返していた。

 話に積極性を感じる質問をされて、少女は嬉しそうな笑みを浮かべると、はい、とはっきりとした返事をする。

 ――全くわかんねぇな

 はぁ、と脱力して顔を覆うと、少しだけぐらりと傾ぐ身体。

 酔いの残る身体と睡眠欲に駆られて、徐々に現状がどうでもいいように感じてくる。

 こんな状態で考え事しても、無駄だろう。そう思ってしまえば、ただただ今は、体の欲する要求に従うことにした。


 「俺、寝たいんだけど」
 「どうぞっ」


 にっこりとした顔でどうぞと言われ、蓮はハハハと苦笑いする。

 一体、何がどうなっているのか、掴むことも億劫になるその笑顔に、心底どうでもいいように感じてくる。


 「話、後にして。も、悪いけど限界。適当にリビング……居てろよ」


 リビングの方向を指差しあくびをしながらすぐそばの扉を開くと、蓮は鞄を放り出してぽふんと音を立ててベッドに身を投げた。

 そのまま数秒で寝息を立て、蓮は深い眠りに落ちた。


 「寝ちゃった、の?」


 長い睫で縁取る瞼をぱちぱちと上下させ、少女は現状にクスリと笑う。

 自分で言うのもなんだが、明らかに不審な人物を家に招き入れた挙句、早々に眠りに落ちるなどどうかしていると少女は思った。


 「椎名さん、襲われちゃってもいいの?」


 リビングに行けと言われたけれど、それでは蓮の顔が見えない。蓮の時間を買えるのかは疑問としても、今の現状を楽しまないでは損をする。

 何と言っても、居てもいいと許可を得たのだ。

 そう思えば居ても立ってもいられなくて、蓮の倒れるベッドの下にちょこんと座りこんだ。


 「やっぱり、カッコいいなぁ……肌、つるつるだぁ」


 芸能人という液晶画面の先にしか目にすることが出来ない人物に、直に触れる距離に近づいて少女のテンションは上がっていた。

 それでも容易に触れてはいけないような気がして、近距離で眺めるだけに止めておく。

 栗色に染まった緩やかに長いウェーブの髪は、男性にしては柔らかそうに見えて触れたい衝動が沸き起こる。

 けれど、それは少女が本来望んだものではないので、グッと我慢をした。


 「今日、一日だけだから……」


 ぎゅっと両手を交差して握りしめると、少女は祈るように目を瞑った。