「で、どういう用件?」
お金には魅力があるものの、明らかに自分から見て年下の人間にたかるような態度は取りたくない。
あくまで『話を聞いてやる』という体(てい)を崩さないように、蓮は偉そうな態度をあえてとった。
しかし、一段低い位置にある玄関に立つ少女は、蓮を見上げるとニコリと笑う。その屈託ない笑顔に、蓮は頭が痛くなった。
――こいつ、何考えてるんだ?
自分にどれほどの想いを持って会いたかったのか知らないが、ここまで突き放した偉そうな態度を取られれば、多少は不愉快だと思われるはずだ。
けれど少女は全く気にしていない様子で、むしろ嬉しそうですらある。
少女の考えがさっぱり分からず、蓮は薄気味悪さを感じていた。
「私、アナタを買いたいくて。だからしばらく調べさせてもらって、今日なら時間があると踏みました。水曜日、仕事されてませんよね?」
まくし立てるように一息に説明すると、にこりと笑って小首をかしげる少女に、蓮は顔を引き攣らせた。
流石に言われた内容に動揺が隠せない。
「調べさせてって、何」
「アナタの家と、仕事の状況などを調べさせてもらいました。とにかく今しかないので」
「はぁ……」
要領を得ないが、探偵でも雇って調べたのだろうか。
気分のいい話ではないが、目の前の少女はかなりの早口で、とにかく焦っている様子が見えた。
「何かして欲しいわけじゃありません。ただ、時間の許す限り側に居てみたいんです。椎名蓮を見たいんです。そのために、椎名蓮の時間を私は買いたい」
真摯さを感じさせる願いに、思わず即答で気を許しそうになってしまう。
元来、蓮はおばあちゃん子故か、自分よりもか弱い存在に頼られるとめっぽう弱い。だから昔は、告白を断るのは随分胸が痛んだのだ。
しかし、と思いとどまる。
――それって、この子にとってメリットあるのか?
利害関係が一致すれば納得がいく。
蓮は金が欲しい、彼女は蓮が欲しい。
しかし一見利害は合致しているようであるが、彼女の願いと、提示された50万円という金額が、蓮に見合う対価ではないように感じた。
今の自分に、そこまでの値打ちがあるだろうか? 例え24時間を拘束されたとしても、50万円の価値があるとは言い切れない。
そう思う自分が思う自分への価値の低さに、ずきりと胸が痛んだ。
「君はそれで得をするの?」

