連れて帰りたい気持ちなど米粒ほどもない、とは思うものの、一先ず厄介そうな相手であることに違いないと蓮は判断して行動に出た。
そしてそれと同時に、甘い誘惑が脳を掠めてもいた。50万円……それが本当に封筒に封入されているかは謎だ。
しかし現在の自分にとってそれは魅力的な数字であり、無下に振り切れない効果を放っていた。とんだ道化だ、と蓮は自分を嘲笑った。
けれどそんなプライドなどもう捨ててしまいたい、弱い蓮が心を巣食っている。
そして蓮の想いとは全く反対の位置で、少女は嬉しそうな表情を浮かべると振りかえりもしない蓮の後をとことこと追いかけた。
『芸能人』――世間一般の人間は、テレビに出てくる人間を芸能人と一括りにするが、どの世界のどの業種でも同じように、ピンからキリまでの人種が存在している。
そして、椎名蓮に関して言えば……その存在を蓮自身は底辺に近い人間だと近頃は認識していた。
大学卒業後、在学中にスカウトされた芸能事務所と契約。
順調に舞台役者として才能を開花させ、活動を始めて1年後には朝の連続テレビドラマの準主役に抜擢された。その時の演技が高い評価を得、とんとん拍子に話が進み次は深夜枠のドラマで主役の座を獲得。
しかしながらそのドラマの視聴率はとことん不調。挙句、蓮と共演した別の俳優の方の悪役ぶりが目立つことになり、蓮が主役を張るには荷が重すぎたのではと囁かれた。
加えて監督と折が合わずに、自分の思う演技が出来ていなかったことも蓮には苛立ちの要因となっていた。そのことが『悪かったのは自分のせいではない』という想いを抱かせる原因となり、そこから先の芸能活動が芳しくない状態にある。
たまの舞台に、友情出演で呼ばれるドラマ。それでも食いつなぐのはなかなか至難のモノで、どうにかバイトなどと掛け持ちせずにいられる現状が精一杯。とても芸能人と大見得を切れるようなものではなく、日々を生きるのが精一杯と言ってもいいほどの状況に陥っていた。
そんな蓮の前にぶら下げられたエサである50万円は、蓮にとって恥ずかしながら喉から手が出そうな代物であった。
こんな自分を買いたいなんて、どうせ顔だけだろうという認識はできている。
芸能人と謳えるほどの何もない。今となっては華々しいデビューなど、世間の人々の間では風化していき、残ったものは芸能人と呼ばれる職業を辞めないという細やかなプライドだけ。
――一体、俺などに何がある? ホストよろしく、おべんちゃらでも求めているのか?
自分を嘲笑っているのだろうか……等と悲しすぎる想像が過る。
けれど、それ以上に――それだけの金が手に入れば、しばらくご無沙汰にしたままの祖母に会いに行けるかもしれない――という思いが、蓮を汚い大人の誘惑へと導き始めていた。
そしてそれと同時に、甘い誘惑が脳を掠めてもいた。50万円……それが本当に封筒に封入されているかは謎だ。
しかし現在の自分にとってそれは魅力的な数字であり、無下に振り切れない効果を放っていた。とんだ道化だ、と蓮は自分を嘲笑った。
けれどそんなプライドなどもう捨ててしまいたい、弱い蓮が心を巣食っている。
そして蓮の想いとは全く反対の位置で、少女は嬉しそうな表情を浮かべると振りかえりもしない蓮の後をとことこと追いかけた。
『芸能人』――世間一般の人間は、テレビに出てくる人間を芸能人と一括りにするが、どの世界のどの業種でも同じように、ピンからキリまでの人種が存在している。
そして、椎名蓮に関して言えば……その存在を蓮自身は底辺に近い人間だと近頃は認識していた。
大学卒業後、在学中にスカウトされた芸能事務所と契約。
順調に舞台役者として才能を開花させ、活動を始めて1年後には朝の連続テレビドラマの準主役に抜擢された。その時の演技が高い評価を得、とんとん拍子に話が進み次は深夜枠のドラマで主役の座を獲得。
しかしながらそのドラマの視聴率はとことん不調。挙句、蓮と共演した別の俳優の方の悪役ぶりが目立つことになり、蓮が主役を張るには荷が重すぎたのではと囁かれた。
加えて監督と折が合わずに、自分の思う演技が出来ていなかったことも蓮には苛立ちの要因となっていた。そのことが『悪かったのは自分のせいではない』という想いを抱かせる原因となり、そこから先の芸能活動が芳しくない状態にある。
たまの舞台に、友情出演で呼ばれるドラマ。それでも食いつなぐのはなかなか至難のモノで、どうにかバイトなどと掛け持ちせずにいられる現状が精一杯。とても芸能人と大見得を切れるようなものではなく、日々を生きるのが精一杯と言ってもいいほどの状況に陥っていた。
そんな蓮の前にぶら下げられたエサである50万円は、蓮にとって恥ずかしながら喉から手が出そうな代物であった。
こんな自分を買いたいなんて、どうせ顔だけだろうという認識はできている。
芸能人と謳えるほどの何もない。今となっては華々しいデビューなど、世間の人々の間では風化していき、残ったものは芸能人と呼ばれる職業を辞めないという細やかなプライドだけ。
――一体、俺などに何がある? ホストよろしく、おべんちゃらでも求めているのか?
自分を嘲笑っているのだろうか……等と悲しすぎる想像が過る。
けれど、それ以上に――それだけの金が手に入れば、しばらくご無沙汰にしたままの祖母に会いに行けるかもしれない――という思いが、蓮を汚い大人の誘惑へと導き始めていた。

