「俺は、刹那を集めてそれを永遠にする」
「それって――」
まるでプロポーズみたいじゃない? と小春は思ったけれど、近づいてきた蓮の顔にドキドキしすぎて上手く考えがまとまらない。
うっかりしていて忘れていたが、蓮は小春などには手が届かないはずの、超イケメンとまで言われる演技も素晴らしい俳優だ。
3年前に見た寝顔をふと小春は思い出す。
あの時よりさらに精悍な顔つきになった。
ゆっくりとパーツを眺めているうちに、鋭い瞳と目が合って絡め取られる。
「小春、目ぇ閉じろ」
「――ッ!」
目を閉じた顔が自分の唇に近づいてくるのが、いくら鈍い小春にも分かる。
落ち着かなくて蓮の胸元に置いた手を握りしめると、きゅっと目を閉じた。
柔らかに包まれる体温。近づく香り。
けれど、触れる直前。やはり怖くなって両手を口元で交差させる。
「あ、のっ」
震える瞳で小春は蓮を見上げ、その顔に蓮はひょいと眉を上げる。
焦る気持ちに、一瞬苛立ちを覚えたが、これが小春だと思えば苦く笑ってしまう。
焦りすぎだと叱咤して小春に向き合うと、小春は戸惑いながら、口を開いた。
「私、普通の大学生だ、よ?」
「んなこと知ってるよ。3年前から」
「じゃ、なくてっ。アナタは、テレビの人で、その……あの、あの、ね?」
「あぁ?」
今更な確認をする小春。
そのモジモジしたところも、テンパっている様子も懐かしいが、それを愉しんでいる時間がない。
蓮は、落ち着けと言わんばかりに小春の頬に手を添えると、そっと持ち上げて瞳を合わせた。
「お前さ、3年前の俺と今の俺、お前にとってなんか違うか?」
「それは、一緒……だけど」
小春にとっては以前から遠い存在で、近くにいることのほうが普通ではない。
それに、昔から今までもずっと、小春には蓮がキラキラ輝いて見えている。
それも全部変わらない。
変わったのはむしろ小春の方で、想いが年月の分大きくなったかもしれない。
けれど、蓮はそんな小春の心を見透かすように、畳み掛けてくる。
「俺も変わらない。小春は3年前から大学生で、そして……」
「そして?」
「ずっと、隣にいてほしいと思うのは、お前だけだった」
「う、そ……」
「嘘じゃない。大体な、お前のせいなんだぞ」
「え?」
はぁ、と嘆息する蓮に小春は首を傾げる。
けれど、蓮は顔を苦くして言葉を続けた。
「ソファ」
「ソファ?」
「隣を……お前の場所、空けるのが癖になってる」
「嘘でしょ?」
「嘘なんかついて、どうすんだよ」
目を見開いたまま固まる小春に、蓮は額をコツとぶつけた。
ゆっくり、じわりと蓮が距離を縮めて埋めていくのに、小春はただただ驚いてばかりで気づかない。
――小春、お前もう逃げられないって分かってねぇのか?
心の中で笑いつつ、蓮は小春の頬を2度擦る。
近い距離に気づいた小春が顔を赤くするのに、蓮は構わず続けた。
「だから、俺の隣はいつもお前が埋めとけよ」
「でも、でも私……っ」
「俺の刹那はお前でしか得られない。小春は?」
「それは、それはっ」
「それは?」
「私だってっ! 蓮が、蓮の側でまた、刹那に会いたかったっ」
「……うん」
小春の訴えに、蓮の心もジワリと熱くなる。
お互いがお互いの想いを同じように抱えていて、それを感じ会えたからだ。
だからもう、蓮は引かないと決め、もう一度顔を近づける。
恥ずかしげに逸らそうとする小春を捕まえ、もう一度両手で顔をすくい上げると、瞳が重なり合って、お互いだけが目に映る。
「まずは、一つ目の刹那を」
長い押し問答に負けた小春は、覚悟を決めて瞳を閉じた。
そしてようやく、 3年前あれほど触れなかった二人の距離がゼロになり、その唇が重なった。
End

