刹那との邂逅

 稚拙な部分はあるものの、一生懸命、丁寧に作られているのを感じる舞台に、気付けば我を忘れて蓮も涙していた。

 テーマとしても学生向きではないだろう。
 けれど、学生故のブレないストーリーの展開や、ストレートな表現が、観客の心を揺さぶった。

 そんな良く出来た舞台も大団円を迎え、客席からは拍手喝采が起きている。

 蓮も遅ればせながら大きな音を立てて拍手を送った。

 暗かった会場内にライトが灯り、舞台が明るく照らされる。

 父と娘を始め、他のキャストたちが一列に並んで手を取りながら頭を下げていて、それにまた客席から拍手が送られる。

 けれど蓮の目に映るのは娘役を演じたスノウただ一人で、その音声すら耳に届くのは彼女の声だけのような気がした。

 きっと彼女からこちらは見えていないだろうが、ふと視線が合った気がして、舞台ではなく、スノウ一人が……堪らなく蓮の心を揺さぶっていく。

 当たり障りない話を座長らしき人物がした後、舞台は終わり観客が出口へと誘導された。

 放心状態の蓮はなかなか思考と身体が追い付かず、他の観客が出て行くのから後れた。

 最後の一人になろうかという頃合いでようやく立ち上がり、再びサングラスをかけて外へ出る。

 明るさに一瞬目を瞑る。そして開いた先に居たのは、役者全員とスタッフ一同。


 「ありがとうございましたー!」


 自分一人に頭を下げる面々の姿を面映ゆく思いながらも、蓮の目に留まるのはやはりスノウ――否、キャスト一覧表に明記されていた相原小春(あいはらこはる)だ。

 足が一歩も踏み出せず、ただ彼女を見つめる彼の様子に、頭を上げはじめた学生らが気付き、妙な空気を感じ取って蓮を凝視した。

 そして視線の先に写るのが、わずか2メートルの距離にいる自分たちの仲間だと気が付き首を傾げる。

 一方の小春は、一か八かの賭けに蓮が本当に来るとは思っておらず、目を見張った。

 舞台から見えたあの顔は、彼だった……そう思えば、自然と涙が滲む。