スプーンでピラフを掬って無言で食べること数回。半分ほどになったところで、咀嚼しながらふと蓮は気が付く。
――俺、名前って聞いたか?
傍に居るだけでいいから気にしないで、そう言われ続けて話をしようと思わなかったため、少女の名前を呼ぶことが無かった。
そのまま数時間が過ぎたが、後半日ほど今日があることを思えば、名前くらいは聞いておくべきだろうといまごろになって気が付いた。
「お前さ。名前は?」
食べながら尋ねると、少女は自分を指差して首を傾げた。
その態度に無言で頷くと、うーんとひと唸りしてから天井を見上げる。自分の名前など悩む必要ないだろ? と思う蓮は、不思議なその態度に食べながら首を傾げると、少女は考えた末にゆっくりと顔を蓮に向けてから小さい声で言った。
「スノウ」
「え?」
「スノウって、呼んで」
その単語に流石の蓮も言葉が止まった。
『スノウ』――それは蓮が一躍有名になった朝ドラの相手役であり、ヒロインの雪だるまの名前だ。
当時大ブームを巻き起こしたその雪だるまは、ある冬の間少女の魂が宿り、蓮が演じる少年と共にひと冬を過ごす。
しかし春を迎える頃には雪だるまが溶けて消えてしまう、という切ない物語だった。
準主役として雪だるまの相手役を演じた蓮は、その雪だるまに宿った少女に恋をしたが、雪だるまは春を迎えるまで残ることが出来ず、当然少女と結ばれることなど出来ぬまま悲しくもラストを迎える。
初めての大役でもあり、思い入れ深い作品『スノウ』。
その名前を口にすることは、今の蓮にとって少し苦しいものがあった。
「スノウ、か……」
勢いよく食べていた手が止まって、スプーンを放り投げるように皿に置いた。それをただジッと見つめながら少女は黙る。
いろいろな想いが胸の裡に込み上げてきたが、蓮はそれらを飲み込んでため息を吐いた。
「分かった」
恐らく少女は『スノウ』のファンに違いないのだろう。
自分を買ってでも傍に居たいと言った割に、何の要求もない少女のことを思えば、呼び名くらい好きにさせてやろうと思うことにした。
――俺、名前って聞いたか?
傍に居るだけでいいから気にしないで、そう言われ続けて話をしようと思わなかったため、少女の名前を呼ぶことが無かった。
そのまま数時間が過ぎたが、後半日ほど今日があることを思えば、名前くらいは聞いておくべきだろうといまごろになって気が付いた。
「お前さ。名前は?」
食べながら尋ねると、少女は自分を指差して首を傾げた。
その態度に無言で頷くと、うーんとひと唸りしてから天井を見上げる。自分の名前など悩む必要ないだろ? と思う蓮は、不思議なその態度に食べながら首を傾げると、少女は考えた末にゆっくりと顔を蓮に向けてから小さい声で言った。
「スノウ」
「え?」
「スノウって、呼んで」
その単語に流石の蓮も言葉が止まった。
『スノウ』――それは蓮が一躍有名になった朝ドラの相手役であり、ヒロインの雪だるまの名前だ。
当時大ブームを巻き起こしたその雪だるまは、ある冬の間少女の魂が宿り、蓮が演じる少年と共にひと冬を過ごす。
しかし春を迎える頃には雪だるまが溶けて消えてしまう、という切ない物語だった。
準主役として雪だるまの相手役を演じた蓮は、その雪だるまに宿った少女に恋をしたが、雪だるまは春を迎えるまで残ることが出来ず、当然少女と結ばれることなど出来ぬまま悲しくもラストを迎える。
初めての大役でもあり、思い入れ深い作品『スノウ』。
その名前を口にすることは、今の蓮にとって少し苦しいものがあった。
「スノウ、か……」
勢いよく食べていた手が止まって、スプーンを放り投げるように皿に置いた。それをただジッと見つめながら少女は黙る。
いろいろな想いが胸の裡に込み上げてきたが、蓮はそれらを飲み込んでため息を吐いた。
「分かった」
恐らく少女は『スノウ』のファンに違いないのだろう。
自分を買ってでも傍に居たいと言った割に、何の要求もない少女のことを思えば、呼び名くらい好きにさせてやろうと思うことにした。

