「腹減っただろ?」
笑いを押さえてから、さらに問いかけると少女は一瞬黙った。
それから、ととと、と蓮に近づき小声で呟いた。
「あの、外では食べちゃ駄目って、言われてて。だから食べたくないとかじゃなくて」
「は? 親にか?」
「あ……まぁ、そんなとこです」
「あ、そう」
ご飯を食べさせなければならない義理もなく、それ以上特段ツッコまずに少女から視線を外すと、冷凍庫を開いて冷凍ピラフを取り出した。
その後ろにちょこちょこと少女は近づいてくると、またじっと蓮を覗き込んでいる。
「食うか?」
やっぱり食べたくなったのかと思い尋ねると、一瞬黙ってからまた頭を横に振る。
蓮はそれを見て何も言わず、黙ってフライパンを火にかけた。
「見てて、いい?」
「好きにしろ」
冷たく突き放したように聞こえたか? と蓮は言ってから反省したが、横を見ると少女は嬉しそうな顔をしていて、その様子にホッと息を吐いた。
じーっと食い入るように手元を見つめられ、少しばかり落ち着かない気持ちになりながらフライパンを振ってピラフを炒める。
「美味しいそうだね」
「冷凍だけどな」
それだけの会話に温かな気持ちになりながら、蓮は更にピラフを移しソファー前の小さなガラステーブルに置いた。
お茶はペットボトルがあるからいらないと言われ、自分の分だけを用意して蓮がソファーに腰かけると、用事を終えてようやく立ち止まった蓮に、戸惑った様子を見せて少女は台所で立ちすくんでいた。
「座れば」
ふっ、と少し笑って蓮がそう言うと、少女はぱっと顔を明るくして同じソファーの少し離れた場所に腰を掛けた。
――やっぱりちゃんと、距離を置くんだな
不自然じゃなく、自然だと感じる程よい距離をきちんと守って傍に居る。
少女の『相手のパーソナルエリア』を守るその態度に、自分が安堵していることも、好ましく思っていることも、もう否定できなくなっていた。

