刹那との邂逅

　お茶を飲む少女を見ながら、蓮は考えた。

　今の少女が本来の姿であるとするならば、最初に見た少女の方がいつもと違う状態だということになる。

　ではなぜそこまでして『椎名蓮』を買いたいと言っているのか……どうでもいいと思っていたはずが、コロコロと移りゆく謎の少女を前にして、蓮はじわりじわりと興味を持ち始めていた。

　無言の時間が流れどう切り出せば良いのか戸惑いつつ、なるべく少女の存在を気にしない素振りで蓮はどさりとソファーに座る。

　１人分以上のスペースを空けて、隣に少女が座っている状態となった。

　はぁと蓮が息を吐くと、ペットボトルのキャップを締めながら少女が小さく震える。

　怯えさせたいわけではないが、どういう風に取り繕っていいのかもわからず、言葉を選びながら頭をガシガシと掻きまわしながら蓮はゆっくりと尋ねた。


　「さっきの、話……だけど」
　「は、はいっ」


　さっきは勢いで強気だったのか、今の彼女はすっかり強気の態度はなりを潜めていて、ガチガチに緊張しているようだ。

　その様子にまた蓮が苦笑すると、少女はぎこちなく頬を歪めて笑った。


　「俺、今日は家で舞台のセリフ覚えの予定。つまり、家から出ることはない」
　「はい」
　「……それで、いいのか？」
　「え？」
　「面白くはないと思う。お前を構うつもりもない。それでもいいのかって聞いてる」


　不遜な態度でそう告げると、蓮は踏ん反り返ってわざと偉そうぶって座る。

　その一部始終を見つめながら、少女はようやく言われた内容に理解が及んだようだ。

　ゆっくりと口角を上げると、今日一番の笑みを浮かべてハイと答える少女に、困ったと思いつつもどこか楽しささえ感じ始めている蓮がそこに居た。