いくつかの町と、森を抜けると目の前に宮殿が見えてくる。


その大きな宮殿は、高く聳えたちあたしたちを出迎える。


庭も広いようで、青々と茂った芝生の上に白い石を敷いた道が十文字に走り、その中央には大きな噴水がこの環境の悪さからは考えられないほど美しい水を噴き上げている。


けれど、その美しい宮殿からは、迫力も荘厳さも感じ取ることが出来なかった。


 地面に降り立つと、足もとがぬかるんでいるためか、ピシャリと音を立てた。


しかし、身体に張り巡らせた防御結界のおかげで身体が汚れることはない。


 箒を振り、宙に投げると、箒は光を放って黒猫になり、あたしの肩に乗る。


 黒猫は、前の状況を見て、顔をしかめた。



「なんだよ、これ。 門ががら空きじゃねぇか」

「無用心よねー」

「いや、そういう問題じゃねぇだろ」


 
 とぼけると、シュガーに鋭いツッコミを入れられた。

 
 隣にきていたカカオも、眉間にシワを寄せている。



「これは、『入ってこい』と言っていると、受け取っていいんだな」

「これは、挑戦状ということだ」

「「……誰?」」 



 あたしとシュガーはハモってしまった。


 口と目を同時にパカッと開き、あたしたちはカカオの隣に現れ、カカオの言葉に同意した不信人物を見つめた。


 誰、この銀髪イケメンさんは!


カカオと同じ烏の濡れ羽色の軍服を纏うすらりとした身体はカカオより大きい。


ぱっと見じゃわからないけど、その軍服の下には確かに鍛え上げられた筋肉があることが伺えた。


それと、なんと言ったらいいのかわからないけど、この落ち着いた雰囲気。


二十代の半ばくらいかな?


 なんか、雰囲気がカカオに似ていて、カカオのお兄ちゃんみたいにも見える。



「ああ、そういえば、紹介していなかったな」

「俺は、カカオの使い魔、ボルトだ」

「ぼぼぼぼボルト━━━ッ!?」



 素っ頓狂な声が、風さえ吹かないオスガリアに響き渡る。