あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。






〈落ち着いて聞いてくれ、カカオ。 まお様が意識不明の状態で倒れているのを使用人が見つけた〉




 え──?


 血の気が、スゥ……と引いて行くのがわかった。



〈とりあえず、一旦帰国してくれ。 っておい、カカオ? 聞いてるのか? カカオ!〉



 ボルトの声は、途中から聞こえなくなっていた。


 俺はフラリと姫に歩み寄る。


 姫は起こったことがわかっていたようで、笑ったまま変わらず扇で扇いでいる。



「──お前が、やったのか」

「イヤですわ。 わたくしは、なにもしてません」

「事がうまくいったって、まおを襲うことだったのか!」



 俺は姫の肩を強く掴み、正面から怒鳴り付ける。

 
 姫は、少し身構えて冷ややかな表情でいった。



「ですから、わたくしはなにもしていませんわ。 わたくしは、彼女に進言しただけのこと。 そちらでは何やら起こったようですが、それはわたくしは知りませんし、関係ありませんの。 何かが起こったのだとしたらそれは彼女自身のせいです」

「っ、クソ!」



 俺は姫を突き放すと、魔方陣を手のひらに出現させる。


ここで帰って仕舞えば、オスガリアに反抗したことになる行動だということも、俺の頭の中からは綺麗さっぱり消え去っていた。


『まおが倒れた』


そのことだけが、頭を支配する。



「どこへ行くんですの? カカオ様はわたくしとここにいるんです!」



俺がそんな行動をとるとは思わなかったのだろう。


たちまち眉を吊り上げ、魔方陣を発動させるのを止めようと、姫は魔方陣の現れた腕にしがみついた。



「離れろ」



 冷ややかで鋭い声を投げかける。


 ビクリと、姫の肩が揺れた。



「俺が側にいたいのは、お前じゃない」

「カカオ様……」

「己の欲のために人を簡単に傷つけるような奴は、俺は好くことができない。 たとえば、お前のようにな」

「…………っ」



 姫はたちまち大きな瞳にいっぱいの涙を溜めると、それを隠すようにうつむいた。


 言い方が厳しかっただろうが、俺には今そんなことを考える余裕はなかった。


 まお……!



「待ってろ……」





 俺は魔方陣の中へ飛び込んだ。