その時、衣摺れの音がして、気配が微かに揺らいだ気がした。



「……ん……」

「……まお、身体はどうだ」

「……カカオ?」



 名を呼べば、とろんとした目は力なくこちらを見る。


 
「……あれ? あたし……」

「ここは、まおの部屋だ。 まおは、あのあと倒れたんだ……」

「あ……そっか、あたし……」



 そういったまおは無意識なのか、首筋に手をやる。


 もちろんそこにあるのは……アルバートの噛んだ傷痕。


 それを見ると、モヤモヤとした思いが、心の奥底から湧きあがってくる。


 胸が、苦しい。


 そんな、切なそうな顔をするな。


 アルバートのことを考えてるんだろう……?


 
「…………」

「カカオ?」



 俺はまおの顔の真横に手をついた。


ベッドに広がった烏の濡羽色のウェーブした短かな髪が、柔らかく指先に絡みついてくる。


 まおは、とろんとした目で、しかも上目遣いで見つめて来るから……何かがぶっ飛んだ。