だから、余計に“人間”になど、ウェズリアは渡さない。
俺たちは、ウェズリアでしか、生きることのできない者なんだ。
「ウェズリアの王子、覚悟!」
再び兵士が剣を高く振りかぶり、襲いかかってきた。
彼らの兵の数は圧倒的で、倒しても倒しても後からいくらでも湧いてくる。
兵士は鋼でできた大剣を振り回し、俺の首をめがけて振り下ろした。
「ッ! 貴様!」
「王子に触るな!」
「くっ……」
火花が視界の隅で光ったかと思うと、兵士の大剣は弧を描いて、遥か遠くへと投げ飛ばされていった。
「王子、お怪我は!?」
「大丈夫だ。 ありがとう、ホゼア」
剣をはじき飛ばしてくれた、まだ幼さがやや残る顔立ちの青年の男は礼を告げると、無邪気な笑顔を向けた。
「いいっす。 これが、オレの任務っすから」
「そうか、よろしく頼む」
「うっす!」
ホゼアはたちまち嬉しそうな顔をすると、また襲い掛かってきた兵士を、己の身長ほどはありそうな槍で弾き返す。
「このオレに戦いを挑もうなんて、100万年早いんだよ!!」
聞いているこちらが恥ずかしくなってしまいそうな台詞だが、その言葉はあながち間違ってもいないように思える。
魔力を持つものは、それの反動なのか基本的に身体が弱い。
それでもホゼアは、オスガリアの兵士に負けず劣らず強い腕力の持ち主だ。
しかも、魔力を今は使っていない。
ホゼアは護衛隊の第一部隊 エディ隊の隊員だ。
軍の中には魔術師隊とは別の機関になる護衛隊が存在する。
主な任務は王族の護衛だ。
王族の護衛は魔女の任務でもあるが、まおはまた特別で、軍の中でも独立した地位にいる。
その護衛隊は10人からなる少数の部隊だが、軍の中でも魔術はもちろんのこと、体力的な能力にも優れた精鋭しか入ることができない。
そんな護衛隊の中にまだ成人したばかりのホゼアが入っているのは異例のことだろう。
将来的には護衛隊の隊長を任す事を考えてもいいかもしれない。