アルバートは一瞬呆気にとられた。


 なんの迷いもなく、あたしが頷いたから。


「本当にいいのか?」

「うん」

「血を吸われるんだぞ」

「いいって言ってるの! 早くして! カカオが!」

「……やっぱり、あの王子のためか……」

「……なんか言った?」

「いや……」


 アルバートはぶるぶると、顔を左右に振る。


 そして、すぐに真剣な顔つきになった。


 自分の身体に張り巡らせていた防御結界を解く。


代わりに周りから中が見えないように、不透明な結界を張り、アルバートと中に入った。


「……まおに俺の魅了の力は効いていないのか」

「魅了の力?」

「一般的にフェロモンともいうな。 この力に魅了されると、力が抜け、そのヴァンパイアの言い成りになる」

「ああ、さっきクコがとろんとろんになってたやつ……」


でも、あたしに効いてないって……?


どうして?


「まおの魔力のせい、か……心の奥底で想っている人がいるからか……」

「ん? なんて言った?」

「いや、なんでもない。 始めよう」


 そう言って向き合ったアルバートの紅い目がワイン色からさらに血の色に近く、鮮やかになり、瞳孔が猫のように縦に細められた。


 だんだんと息が荒くなり、唇の間から見えていた牙が急速に伸びていく。


「──いいか?」


 声が牙のせいでくぐもって聞こえた。


アルバートは完璧なヴァンパイアになり、あたしの肩に手を置いた。


 そのとたん、心臓がバクン、バクンと大きく脈打ち始めた。


 足が、ガクガクと震えそうになってしまう。


 ダメ、怖がっちゃ。


 カカオの、ためなんだから。