あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。





 魔方陣がパチパチと静電気を発し始め、文字が微かにぶれ始めた。


腕が痺れてきている。


 このままじゃ……やばい。


 ……負ける!


 悔しさと苦しさでギュッと目をつぶった瞬間。


服の胸元から、何かがこぼれ落ちる。


それは赤の宝石。


これは……!


それが視界に飛び込んで来た瞬間、脳裏に紅い瞳が浮かんだ。


風が吹き荒れる中、宝石を空いている手でなんとか掴み取り、強く握りしめていた。


「──助けて!」


キィンと小さく耳鳴りがして、身体全体にのしかかっていた重みが無くなり、代わりに近くに何かが倒れ込む音がした。


「大丈夫だったか」


 落ち着いた低いトーンの魅惑の声。


 その紅い瞳に囚われると、そこから視線が離せなくなった。


「──アルバート! どうしてここに?」

〈お前!〉


一時的に黒猫姿に戻っていたシュガーが毛を逆立てたちまち牙を剥いた。


 そう、そこにいたのは……クライヴの森──別名〈ヴァンパイアの森〉のヴァンパイアたちの長、アルバートだった。


 黒いくるぶしまで隠れるコートを着込み、今日も妖しくそのフェロモンを辺りに振り撒く。


 隣を見ると、クコが目をとろんとさせて、アルバートにくぎづけになっていた。

 
 手を顔の前で組み、今にもアルバートに吸いつけられそうになっている。


アルバートは魅惑の微笑を浮かべる。


「俺は今、まおに呼ばれた」


その宝石によってな、と彼はあたしの首から下げている紅の宝石をつまみあげた。


この宝石は、アルバートにもらったもの。


何か用があったらこれに語りかければ助けに来ると言っていた。


そっか。


あたし、さっき咄嗟にアルバートに助けを求めてしまったんだ。


宝石の紅が、痛烈にアルバートの瞳を思い出させた。


「それに王子と戦争に出るように言われていた。 それが“約束”だったからな」


 あの日確かにそういってた。


「仲間たちも数人連れてきた。 あちらこちらでそれぞれ戦っているだろう。 ちょうど戦に参戦しようとした矢先、まおに呼ばれたんだ」


 なら!


「アルバート、カカオを助けて!」

「俺があの王子を?」


 会話をしながらまた一人、片手で兵士を軽々と持ち上げ、遠くへと無造作に投げたアルバートは、怪訝そうな顔をした。


「あたしが行きたいけど……あの量の人を一気に相手は出来ないし……」


 その言葉は嘘ではなかった。


 あたしは今、五つの結界を一気に発動させている。


 四つは、あたし、クコ、クレア、リカエルさんの身体を覆っている防御結界。


 そしてもう一つは……城を覆う、巨大な防御結界だ。


 城を覆うだけでも、今のあたしにはギリギリで……そのうえ、ちょっとムリをしてクレアに結界を張ってしまった。


 それがこんなに大変だなんて、思いもしなかった。


 身体がダルい。


 頭は酸欠みたいでクラクラする。


 視界は僅かに白く霞がかかって、腕も、まぶたさえも重く感じる。


 “魔力を消費する”なんて、今まであたしはすごい魔力を持っていてもすべて消費するほどの魔法なんて使わなかったから、余計に反動が大きかったのかも。