まだ遠くでは、白煙が上がっている。
あそこで、戦争が起こっている。
あたし……こんなとこにいていいのかな。
あたしは、魔力が強い魔女で、唯一無二の存在。
この国を守る為に呼ばれた。
なのに、なにもできないの……?
誰よりも先に出て、戦わなきゃいけないのに……。
でも……。
ギュッと拳を握る。
正直、怖い……。
ここは異世界。
地球とはちがう世界で、魔力でも戦争でもなんでもあり。
本当に自分の身を守れるのは自分だけ。
だけど……あたしは魔力はまだ安定していない。
頼れる人も……いない。
それでも、あたしは……。
「──シュガー、いる?」
なにもない空間に話しかけると、
〈呼んだか? まお〉
紫色の魔方陣が現れ、そこから黒猫シュガーが現れた。
「カカオは、どこにいるか知ってる?」
〈あの王子か? んー、まてよ……〉
シュガーは目を見張り、白煙が上がった方を見つめ、何かを探り始める。
その黄金の瞳は、微かに魔力を灯してぼんやりと輝いている。
ピタリと、黄金の瞳が焦点を定めた。
〈あの煙の上がったところにいるみてぇだぞ〉
「じゃあシュガー、行くよ!」
〈行くってまさか……〉
「そのまさか! ほら、早く箒に変身して!」
〈ええええ! おい、ちょっと待て!〉
驚いたシュガーがあたしの肩によじ登り、耳もとで叫ぶ。
〈行くって、あの戦場にか?〉
「そうよ」
それ以外、なにがあるの?
〈まお、大丈夫なのか?〉
「…………(大丈夫!とは言いきれない)」
あたしは顔をそぉーっと反らす。
〈あー! 反らした!〉
「とにかく、早く行こう! あー、グズグズするなら勝手に変身させる!」
「待て!まお!」
シュガーの身体が光り、そこに赤髪の少年の姿が現れる。
「お前、これが戦争だって、わかってんのか⁉︎」
「うん」
「今までの練習じゃねぇんだぞ⁉︎」
「……うん」
「言っとくけど、俺は反対だぜ」
「シュガー……」
「お前、まだ魔力を放出するくらいしかできない。 しかも安定してない。 そんなやつが戦場に出てみろ。 格好の餌食だ。足を引っ張るつもりか? 生半可の気持ちであそこへいって何もできねぇで足を引っ張るくらいなら、ここで訓練して少しでも魔力を安定させることが先だろうが!」
「っ!」
シュガーの、いう通りだ。
あたしは、まだ何もできない。
いくら魔力を持ってても、強くない。
戦えない。
戦場へ行っても、何もできないかもしれない。
それでも。
「知ってる人たちが傷ついてるっていうのに、あたしだけここで待ってるだけなんて嫌だ!」
あたしの言葉に大人しくなってしまったシュガーに魔力を送り、箒に変身させる。
あたしは箒にまたがると、軽く地面を蹴って、空に浮かび上がった。
箒を南門に向ける。
「──じゃあ、行くよ」
〈……ムリすんじゃねぇよ〉
「もちろん!」
それから、あたしは南門へむかって飛んだ。