意味がわからない
この男はさっきから何を言っているのです?
狂気じみたこの男に対する恐怖が身をすくませた。
「ベアトリーチェ!!!!」
声と共に伸ばされた手に腕を掴まれ、ひどく乱暴に引きずられた。
「っ、離して!!」
男は私の声を無視して、小さなこの家の、小さなキッチンへ私を引きずる。
私が手を引き剥がそうと叩いたり、爪を立てたりしたせいか男の腕は傷だらけになっていた。
その腕で、男は私の腕を掴んだままひねりあげ、痛みにうめく私に目もくれず、空いた手で迷うことなく……
棚から包丁を取り出した。
正直、何故包丁をあっさりと見つけ出したのかという疑問が浮かんだ
と同時に、それで何をするつもりなのか。
私は目を見開き、おそるおそる
「な……にを、するの?」
と尋ねた。
男はようやく私の顔を見て、優しげに微笑んだ。
「ああ、すまない。怯えさせてしまったかい?
大丈夫、君を傷つける訳じゃないよ」
そう言いながらも、男は包丁を私に突きつけている。
「愛しい愛しいベアトリーチェ…
君はね、昨日俺に抱かれながら、うわ言のようにアレクの名を呼んだんだ」
「!」
「でも、君は俺を選んだんだろう?だから俺と寝たんだろう?アレクの名を呼び、後生大事そうにネックレスを撫で、狂おしいほどに愛しげにアレクを呼んでいたけど、そこにいたのは俺なんだ、目の前には俺しかいなかったんだ!!村中の男は君に憧れてるよ!君は身も心も美しい!!そんな君は俺のモノなんだ!!もう俺のモノなんだ!!!!」
包丁の切っ先が首筋にあたり、チクリと痛みを感じた
「貞淑な君は、操を俺に捧げた!!アレクでなく、俺に!!!君は情婦じゃない、聖女だ!!つまり、俺に全てを捧げるつもりだったんだろう!?俺を愛してるんだろう?!!?」
…意味がわからない
何故私があなたを愛しているという結論にいたったのでしょう
「アレク、アレク、アレク!
俺を愛しているベアトリーチェをたぶらかす野郎!
家が近いからって、昔からベアトリーチェに馴れ馴れしかったやつ!!
俺はあいつが嫌いで仕方がないんだ!
でも、ベアトリーチェはついに俺への愛を示してくれた!!
だから、俺が、ベアトリーチェの、あいつのまやかしを取り除いてあげるよ!!!」
そう叫ぶと、男は私を押し飛ばした。
「あっ」
咄嗟のことでうまく手をつけず、床に全身を叩きつけられた。
しかし、男はそんな間にキッチンを飛び出していた。
なんてこと!!!!
男はまるで意味のわからないことを言っていたが、最後の言葉はつまり、男がアレクに、あの包丁で危害を加えることなのだろう。
なんてことなの、なんてことなの!!
どうにかしないと!
あの男を止めないと!!