「ホント、不幸な親だよな。男運ねーし、病気に負けるし。『郁人の身体が弱いのは母さんのせいだね。せめて郁人の夢を応援するよ。これがそのお守りだから』って……」
強くたまごを握り締めた手の甲に、ポタポタと雫が落ちる。
「……おふくろとケンカして家出したら、それが最後になるなんて思ってもみなかった……。
たかが口論ひとつで切羽詰まって、他人の家に転がり込んで……俺、何やってんだろうな。何しにここに来たんだろう……」
「……お父さんやお兄さんと連絡は取ったの?」
「……アイツらはもう関係ない」
「でも、血の繋がった家族でしょう? きっと力になってくれるはずよ」
「おふくろを捨てたヤツらだ! そんなのこっちから願い下げだ!」
テーブルを打ち据えた郁人くんは、固く拳を握り締めたまま怒りに震える。


