気が付くと、奴はいた。

紅いインバネスコート、黒のスーツに身を包んだ青白い顔の長身痩躯の男が、隈の出来た不健康そうな眼でセシルを見ている。

頭の天辺から爪先まで、値踏みしている。

その眼は、視姦と言ってもいい。

ゾワゾワと鳥肌の立つような、悍ましい視線だった。

そんな視線で見ながら、奴…邪悪はセシルの左胸に銃口を突きつける。

黒鉄の銃『ネヴィロス』を。

恐ろしく大きな拳銃だ。

全長40センチ、重量15キロ。

とても人間が片手で扱える代物ではない。

人間の世界では決してお目にかかる事のない、海兵隊員のセシルですら初めて目にする拳銃だった。