逃げるように九龍都市最上層部の邪悪のフロアを出て行くセシル。

…どうにもいけない。

ベナル大災厄の後、人知れずこの九龍都市に棲みついた邪悪とセシル。

それから10年も経過しているというのに、セシルはまだ人間臭さが抜けない。

化け物の癖に、人間の血肉を口にするのも、いまだ拒絶する。

下手をすると人間の殺害さえも躊躇いそうだ。

だが、まぁいい。

一度人間相手に、命の危険に瀕するほど追いつめられればいい。

そうすれば嫌でも人間を殺せるようになる。

一度殺してしまえば、後は何百人殺すのも同じだ。

味を占めれば、化け物の本能に目覚める事だろう。

セシルに始末を命じたのは、それに打って付けの相手。

「カトリックの祓魔師か…珍しい客が来たものだ」