「はあっ、はあっ……」

 肩で息をしながら、民家の塀に背中を預ける。

 もう、駄目だ。

 散々走ったので足は悲鳴を上げていた。

 とりあえず、あいつから充分な距離はとれたんじゃないか。

 辺りを見渡す。ただ、奴を撒いたところで、この状況を何とかしないとラチがあかない。

 俺は頭を悩ませた。

「見ーっけ」

 ぎょっとした俺は顔を上げた。

 そこにはこちらに向かってゆっくりと歩いてくるあの男の姿があった。

 心なしか声が弾んでいる。遊びでも楽しんでいるつもりなのか。

 俺から十メートルほどのところで止まった男は、軽い口調で口を開いた。

「どうする? まだ逃げる? まあ、逃げたところで状況は変わらないけど。終わらせたいなら向かってこいよ」