ドッペル・ゲンガー

 強引に肩を掴み、男をこちらへと振り返らせた。

「お前……」

 そこで俺の動きは止まった。

「お、れ……?」

 理解不能な状況に言葉が詰まる。

「もうあんまり時間がない。自分を"生かす"か"殺す"か。決めるのはお前自身だ」

 こいつの言っている事が理解できない。

 それ以上に、何で俺が二人もいる?

 俺は自分の顔に触れた。

「大丈夫。お前も"俺"だから」

 そう言うと、もう一人の俺は切ないような、悲しいような、何とも表現し難い表情を浮かべた。

「夢、なのか……」

 ポツリとつぶやいた俺の言葉に、目の前の俺は目を伏せながら首を横に振った。

「だっておかしいだろ。何で俺が二人もいるんだよ。そんな事絶対にあり得ない」

 首を横に振られたところで、到底受け入れられる事じゃない。

「ドッペル、ゲンガー……?」

 超常現象の一つとして、一度は耳にした事がある言葉。

 諸説はあるようだが、オカルト話として登場するその存在は、見ると死ぬという話だ。

 どうしてこんな状況になっているのか分からないけれど、混乱した今の頭ではそれぐらいの解釈しか生み出せなかった。