「家族ならここにいるよ」

暫く続いた部屋の静寂を、最初に打ち破る声がフェイの口から発せられた。

涙で歪んだ視界の先に見えたフェイの顔は、レースカーテンから漏れる眩しい程の夕日で染まっていた。


「何、言ってるの」

私は服の袖で目元を拭いながら不貞腐れたように小さく返事を返した。

こすりすぎて瞼が痛くて、またじわじわと目頭が熱くなっていく。


「はい、コーヒーだよ」

真っ黒なコーヒーの入った白いマグカップを、私の正面の机に丁寧に置くフェイ。
少し覗き込んでみると、水面に移りぐにゃぐにゃと揺れる私の顔が写り、香ばしく優しい香りが漂ってきた。

フェイはミルクを入れずに、砂糖を一杯だけ入れたみたいだった。

私はマグカップの取っ手を右手に持ち、口元に運びそれを口にした。
ほんのり和らいだ苦味が口の中を満たし、心まですんなりと入ってくるように……一口飲んだだけで気持ちが落ち着いて、同時に父の事を思い出してしまう。


「ねぇ、誤魔化さないで。家族って…あんたが?あんたはただの幼馴染じゃない……」

また目頭が熱くなり始め、それを誤魔化すためにフェイに問いかける。
少しの間、静寂が流れた。