私は両親が大好きだった。

毎朝花瓶の水を取り換える私の横で、花を愛でる母。
その様子を見て優しく微笑む父。

父が新聞を読みながらコーヒーを飲むと、母は先程まで愛でていた花を傷つけないようにそっと離し、父に向かって怒鳴る。
確かに、何かを読んだりしながらコーヒーを飲んだりパンをかじったりしてはいけない。

母の正論に、耳をふさぐ父。

でも、私はそんな父の毎朝飲むコーヒーの香りが大好きだった。



コーヒーは、砂糖をスプーン一杯入れるのが一番いいのさ



父の口癖だった。

そういった父は私の分のコーヒーも淹れ、渡してくれた。
小さいころはこの苦さが苦手だったけど、折角父が淹れてくれたので頑張って飲み干していた。
お陰様で今では大好きなんだ。

ミルクと砂糖を一杯入れるのは邪道だよ。
ミルクを入れる時は砂糖は要らないの。
まろやかな苦みを、砂糖で甘くしちゃいけないから。

そう私が言うと、父親は よくわかってるじゃないか って私の頭をなでる。
高校生なのに、父に頭をなでられるなんて…。そう思うけど、でもその手がとても優しくて…

私は黙って受け入れてた。