「 ……… はい、次は熱を計りますからね。」
               「自分の体のことはよくわかります!僕が死ぬ前に…」
               青年は必死だった。明日死ぬかもしれない病気なのだろう。
               「またそうやってデートに誘うんでしょ?」
               「ダメですか?死ぬんですよ!最後のお願いです!」
               看護婦は呆れたように言った。
               「オホン!盲腸じゃあいにく死ねませんので。あと同僚の礼子にも同じ方法でデートに誘ってたらしいじゃない?」
               さすがに盲腸じゃ死ねないことは青年は知っていたが、よほど看護婦さんが気に入ったのだろう。あまりのしつこさにもう一人の看護婦礼子は青年を避けるほどだ。もうナンパだ。
               ナンパが失敗した青年は急いで幸子のもとへ駆け付けたが、約束の時間を一時間も過ぎていた。
               「かなり疲れているんじゃないの?無理はしないで!あなたと私はまたゆっくり話せる時間があるから、向こうでね。」
               「え!?向こうですか!嫌ですよぉ。ナースステーションの前で幸子さんと話してたら、独り言を言う危ない青年になっちゃいます!成仏探偵じゃなく、危険物探偵…なんちって。」
               普通にとぼけて見せたつもりが、幸子は泣き始めた。幸子はわざと青年がとぼけて、自分の病気のことを忘れようとしているように見えたのだ。その姿があまりにも自分の弟の姿と一致した。
               そして二人は誰もいないベンチに腰をかけた。
               「私、実は弟がいたのよ。もう私が小学校の時だけどね…。」
               泣きながら語る幸子を見た青年はこの急展開に戸惑った。リラックスさせるつもりが裏目に出てしまい、女心はわからないなとつくづく思った。無論、幸子が勘違いを起こしてなかったら、このような展開はまだ先になってたことだろう。そうとは知らない幸子は話を続ける。