そんな菜々瀬の前を通り抜け、ケンがユリに近づく。


「ユリさんってお酒強かったっけ?」


さりげなく横に座って声をかけた。


「強くはないよ。普通に飲めるけど、顔には出ないから自分で気をつけないといけないの。それにほら、せっかくキョウがつくってくれたお酒よ? 飲みたいじゃない」

「ははっ、ユリさんってそんなにキョウのこと好きだった?」

「一緒に暮らしてたときは楽しかったし、いなくなったときはさみしかったし、またこうして会えたのはうれしいよ」


きれいな笑顔で言うユリに、相変わらず隙を見せない女だと、ケンは思った。


「俺もちょこちょこここ来てるし、俺とも話してね」

「そうだね。ケンゾーやサキは元気?」

「ケンゾーは元気だよ。あいつもたまに来る。サキは会ってないからわからないな」

「そうなんだ。ケンとサキってあんまり仲よくなかったもんね」


その言葉に息が詰まった。


「あ、ごめん。言葉を選ばなすぎたかな。えっとね、みんなでいると普通に仲よく見えるんだけど、あえて二人で話してるようなところは見ないなって、そう思ってただけよ」


「……そう、だったかな」


ふと見たユリの表情は相変わらずきれいな笑顔のままで、本当にこの女が嫌いだと、ケンは思った。