「はい、これ」


ことんとテーブルに置かれたそれは、鍵。
当時キョウが持っていたそのままで、薄汚れた革のストラップがついているもの。


「……ユリさん」

「またいつでも来てくれていいよ」

「今はケンと住んでるし、仕事もある。行かないよ」


テーブルに置かれた鍵を押し返そうとしたら、手を握られた。


「キョウに、持っててほしいの」


真剣な、悲哀のこもった視線と声色。


「急にいなくなって、けっこうさみしかったんだから」

「……ごめん」

「ううん、いいよ。ねえ、これ、いつでも使って」


きゅっと鍵を握らされたら、もう突き返すことはできなくなってしまった。

こういうところも、この人のずるいところだ。


「使わないと、思うけど。まあ、わかったよ」

「ふふ、うん。ねえ、今度はカカオフィズがいいな」

「わかった。待ってて」


キョウがグラスを持って立ち上がり、手は離れた。

すっと動いたユリの視線の先には、こちらを気にする菜々瀬の姿があった。