菜々瀬と芹、二人の胸から同時に「きゅんっ」という音が鳴ったのは言うまでもない。

言われた通りに端に座ると、菜々瀬は辺りを見回す。

飲むにはまだ少し早い時間だからか、店内にお客はいない。

だけど、彼の姿も無いのだ。


「キョウくんには買い出しに行ってもらっています。
近くのコンビニですから、もうすぐ戻ってくると思いますよ」

「えっ…!」


思わずマスターを見るけれど、相変わらずの掴めない微笑みのまま。


「ははっ! ナナわかりやす~い。でも芹沢さんもさすがですね!」

「お客さまの観察は基本ですからね。さて、ご注文をお伺いしても?」

「んー…あっ、ここってビールとかも?」


飲む気満々の芹は、カウンターの奥にあるビールサーバを見つけたようだ。



「ええ、ございますよ。酒類は一通り、仰って下されば軽食もお出しできます。
ああ、でもお食事はキョウくんが戻ってからの方がいいかもしれませんね」

「…キョウ…さん、料理得意なんですか?」