「へーき?」


へたり込んでいる菜々瀬に視線を合わせてしゃがんでくれる彼。

眺めの前髪の隙間から、濡れたような真っ黒の目が覗いている。

その声もその目線も、とても優しそうで、儚げで。


「は…い、ありがとうございました…」

「別にいい。目立ったのは面倒だけど。

あんたもさ、慣れてないならこういう所で一人になんない方がいいよ」

「そう、ですよね…すみません」

「ほら、立って。汚れる」

「ぅわっ!」


ぐい、と腕を引かれ立たされる。


「怪我とかない?」

「だいじょぶ、です」

「そ。んじゃね、俺仕事戻るから」

「あ、ありがとうございました…!」

「ん」