その言葉に、肩が跳ねる。


「何でも、ケンゾーくん、恭平くん、サキくんは昔のお友だちだそうですね。

彼もなかなか見込みのある青年でした。見目もいいし、お店でも人気でして」

「そう…ですか」

「しばらく会っていないのでしょう?

今、彼は私の勧めで新しいことに挑戦中なのです。

いずれ再会できるといいですね」


マスター、芹沢は物腰の柔らかい、笑顔の絶えない人だった。

ケンゾーの言う通り、どこか近寄り難いようなミステリアスさがある。

だけど傍にいると落ち着くのは、その声音が優しいからだろうか。

サキが懐くのもわかる気がした。


「ああ、そうだ。店での名前を決めなければいけませんね」

「…源氏名ですか?」

「ホストとは違いますが、そのようなものです。

"非現実をご提供"が我が店のモットーでして。

ほら、サキくんも。このお店での名前は"サキ"でした。

昔から呼ばれている渾名なのでしょう?」